すでに営業している店舗を改装するときは、更地から建てる新築とは事情が違います。借りている物件の契約条件、建物の構造や既存の設備といった前提を引き継いだまま工事を進めるため、「希望どおりの工事ができない」「途中で別の手続きが必要になった」と後から分かると、費用も工期も動きます。
ここでは、設計と発注を固める前に確認しておきたい7項目を、根拠となる法令・制度とあわせて整理します。物件をこれから借りる段階の方は物件を契約する前に確認する7項目、引き渡し状態の違いについては居抜きとスケルトン、違いをどう読むかもあわせてご覧ください。個別の物件・工事内容についての最終判断は、建築士や各行政窓口など専門家への確認が前提です。
1. 賃貸借契約上の工事可否と原状回復義務
借りている物件を改装するときは、まず賃貸借契約書で「どこまで工事してよいか」を確認します。内装や設備の変更に貸主の書面承諾が要るか、変更してよい範囲はどこまでか、そして退去時の原状回復をどの状態まで求められるか(入居時の状態か、スケルトンか)の3点です。
事業用の店舗賃貸では、原状回復の範囲は基本的に契約書の定めが優先します。改装で加えた造作をどこまで残せるか、撤去する義務が誰にあるかは、今回の改装費だけでなく将来の退去費用にも直結します。国土交通省のガイドラインは民間の居住用賃貸住宅を想定したもので店舗には直接適用されませんが、通常損耗と故意過失による損耗を分ける考え方は、契約条項を読むときの参考になります。
工事の内容を施工者と詰める前に、承諾の要否と原状回復の範囲を貸主と書面で確認しておくと、後の手戻りが減ります。
一次情報
- 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について/国土交通省(居住用賃貸住宅向け。店舗は契約書の定めが優先。考え方の参考): https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html (確認日 2026-07-31)
- 借地借家法(造作買取請求権など。条文)/e-Gov法令検索: https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090 (確認日 2026-07-31)
2. 用途変更の確認申請が要るか
改装にあわせて建物の使われ方を変える場合(物販店を飲食店に、事務所を店舗に、など)は、建築基準法上の「用途変更の確認申請」が必要かを確認します。特殊建築物への用途変更で、用途変更する部分の床面積が200平方メートルを超える場合は確認申請が必要です。2019年の改正で、従来の100平方メートル超から200平方メートル超に引き上げられました。
確認申請が必要な規模になると、建築士による図書の作成・申請と、工事完了後の完了届が必要になり、時間と費用がかかります。一方で、200平方メートル以下で確認申請が不要な場合でも、建築基準法や消防法に適合させる義務そのものは残ります。「申請が要らない=そのまま使える」ではない点に注意します。
増築や大規模な用途変更を伴う場合は、石川県バリアフリー社会の推進に関する条例に基づく届出や整備基準の対象になることがあります。対象になると出入口・通路幅・トイレなどが設計に影響するため、レイアウトを固める前に、県の整備基準と金沢市建築指導課の届出窓口を確認しておきます。
一次情報
- 建築確認申請の手続き/金沢市建築指導課(用途変更・完了届の案内を含む): https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kenchikushidoka/gyomuannai/4/8493.html (確認日 2026-07-31)
- バリアフリー法・条例について/石川県(条例の概要・届出・適合証): https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/barrierfree.html (確認日 2026-07-31)
3. 内装制限(壁・天井の仕上げ材)
改装で壁や天井の仕上げ材を変える場合は、建築基準法の内装制限がかかるかを確認します。内装制限とは、火災時に燃え広がるのを抑えるため、仕上げ材を不燃・準不燃といった燃えにくい材料に限定する規定です。厨房などの火気使用室や、一定規模・用途の特殊建築物が対象になります。
制限の内容は、建物の規模・階数・用途・火気使用の有無で変わります。デザインと素材を先に決めてから制限に気づくと、仕上げ材の差し替えややり直しが発生します。素材を選定する段階で、建築士や金沢市建築指導課に確認しておくのが確実です。
一次情報
- 建築基準法(内装制限。第35条の2ほか。条文)/e-Gov法令検索: https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201 (確認日 2026-07-31)
- 建築確認申請の手続き/金沢市建築指導課(適合の確認・相談窓口): https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/kenchikushidoka/gyomuannai/4/8493.html (確認日 2026-07-31)
4. 消防への届出
改装工事の内容によっては、着工前に消防へ「防火対象物工事等計画届出書」を提出する必要があります。あわせて、間仕切りの変更で避難経路が変わらないか、自動火災報知設備や誘導灯などの消防用設備の増設・移設が要らないかを確認します。
間仕切り・用途・収容人員が変わると、避難経路や必要な消防用設備の要件も変わります。着工後に不足が判明すると、内装のやり直しや設備の追加が必要になります。届出には提出期限があるため、工程を組む前に金沢市消防局へ相談しておくと手戻りを減らせます。窓口では各種様式が公開されており、電子申請にも対応しています。
一次情報
- 申請・届出/金沢市消防局(防火対象物工事等計画届出書ほか各種様式・電子申請): https://fire.city.kanazawa.ishikawa.jp/shinsei/shinsei.html (確認日 2026-07-31)
5. アスベスト(石綿)の事前調査
一定の建築物の解体・改修工事では、着工前に石綿(アスベスト)を含む建材があるかどうかを調べる事前調査が、法令で義務づけられています。2023年(令和5年)10月1日以降に着工する工事の事前調査は、原則として厚生労働大臣が定める講習を修了した有資格者(建築物石綿含有建材調査者など)が行う必要があります。
古い建物の内装材や下地にはアスベストが含まれることがあり、調査せずに撤去すると健康被害と法令違反のおそれがあります。事前調査の結果は、一定規模以上の工事では「石綿事前調査結果報告システム」での報告も必要です。既存の壁・天井・床を撤去する改装では、調査と報告、含有していた場合の除去にかかる時間を、早い段階で工程に織り込んでおきます。
一次情報
- 石綿総合情報ポータルサイト/厚生労働省(事前調査・有資格者調査義務・報告制度の案内): https://www.ishiwata.mhlw.go.jp/ (確認日 2026-07-31)
6. 追加工事が発生する条件と合意ルール
改装では、壁・床・天井を開けてみて初めて分かる劣化や不具合によって、追加の工事が発生することがあります。配管の腐食、下地の傷み、図面と現状の食い違いなどです。既存の建物を扱う以上、新築より不確実性が高い前提で計画を組みます。
契約前に、追加や変更が生じたときの取り扱いを施工者と確認しておきます。何が当初見積の範囲で、何が追加になるのか、追加が出たときにどう合意して書面にするのか、という手順です。建設工事の請負契約は、変更時も含めて内容を書面で定めることが建設業法で求められています。口頭のまま進めると、金額と範囲の認識がずれたときに解決が難しくなります。
一次情報
- 建設業法(請負契約の内容・書面交付。第19条ほか。条文)/e-Gov法令検索: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100 (確認日 2026-07-31)
7. 補助金の「事前着手NG」の原則
改装費に公的な補助金を使う予定がある場合は、多くの補助金で「交付決定の前に発注・契約・着工した経費は補助対象外」とされている点を、計画の最初に確認します。補助金は原則として、交付決定の後に発注・契約した経費が対象です。
工事を急いで先に契約・着工すると、その経費が補助対象から外れることがあります。事業再構築補助金のように事前着手の承認制度を設けている例もありますが、扱いは制度ごとに異なるため、使おうとしている補助金の公募要領で、補助対象期間と交付決定の時期を必ず確認します。改装のスケジュールは、交付決定の時期から逆算して組むことになります。
金沢の事業者が使える制度は、あきなびのさがす(補助金・支援制度)で一覧できます。
一次情報
- 小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>/全国商工会連合会(公募要領で補助対象期間・交付決定の時期を確認): https://r6.jizokukahojokin.info/ (確認日 2026-07-31)
まとめと注記
改装は、既存の建物・契約・設備という動かせない前提を抱えたまま進む工程です。ここで挙げた7項目は、いずれも設計と発注を固める前に、自分で一次情報にあたるか、貸主・施工者・行政窓口に相談すれば確認できるものです。あわせて、工事中の近隣対応(騒音・振動の届出を含む)や、営業を続けながら工事ができるかどうかも、施工者と早めに相談しておくと工程が立てやすくなります。
この記事は、法令・公的制度に基づく一般的な確認事項を整理したものです。特定の物件・工事内容について「この改装ができる/できない」「この手続きが要る/要らない」といった個別の判断は、建物の実態・図面・現地調査・関係窓口への確認を経て行うものです。判断に迷う点は、発注を急がず、建築士や各行政窓口(金沢市建築指導課・消防局・保健所、石川県)にご相談ください。
掲載している一次情報リンクと法令の内容は 2026-07-31 時点で確認したものであり、制度改正等で変わる場合があります。実際の手続きの際は、最新の一次情報をご確認ください。